研究内容

岡田・アルブレヒト研究室では、岡田・猪石グループが二次電池材料開発に関する研究、アルブレヒトグループが有機化学をベースとした電気化学・光化学に関連した研究を行っています。本ページでは、主に岡田・猪石グループの二次電池材料開発に関する研究内容を紹介しています。(随時更新中)

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H23年の福島原発事故以降、我が国の電力需給状況が極めて逼迫した状況にあり、ピークシフト、ピークカットに利用可能な、充放電効率の高い大型蓄電池の早期開発が熱望されています。エネルギー密度が要求される小型蓄電池と異なり、コストパフォーマンスが要求される大型蓄電池実現のための研究戦略の三本柱は下記の通りです。

① 経済性向上:安価・低環境負荷のレアメタルフリー正/負極活物質開発

正極材料のレアメタルフリー化のポイントはレドックス中心となる遷移金属の中で最も環境負荷の小さな鉄を如何に使いこなすかにかかっています。現在鉄系ポリアニオン正極の中で最大のエネルギー密度が報告されているオリビン型LiFePO4正極が、電気自動車のような大型リチウムイオン電池用正極として最有力視されていますが、LiFePO4をもってしても、現行リチウムイオン電池のエネルギー密度に及びません。そこで、経済性と安全性を材料レベルで確保しつつ、LiFePO4を凌ぐエネルギー密度を有するフッ化物系新規鉄化合物正極活物質の探索及び、合成を進めており、フッ化ポリアニオンやペロブスカイト型フッ化金属などのフッ化物の中から、フッ素の小さな電気化学当量と高い電気陰性度を生かした5V級高電位型正極活物質Li2CoPO4Fやペロブスカイト型FeF3が見つかっています。さらに、カルボサーマルの処理ような表面改質・導電性付与や、溶融急冷法といった新たな材料合成プロセスの開発、塗布技術の高度化によりエネルギー密度、出力特性、安全性、サイクル特性改善の目途を得るべく、研究を行っています。 
負極に関しては、リチウムよりも資源量の制約が3桁以上緩いアルカリ金属であるナトリウムをゲストとするナトリウムイオン電池の実現に向けた検討を行っています。

② 安全性向上:揮発性非水系電解液の熱安定性評価、革新型電池への展開

安全性のキーポイントは酸化物正極からの酸素脱離による電解液の発熱を如何に抑制するかに掛かっています。特に電池の発熱量は体積、電池の放熱量は表面積に比例するため、電池サイズが大きくなるにつれて、発熱量>放熱量の傾向が顕著になり、熱暴走に至るまでのマージンが確保しにくくなる宿命にあります。せっかく新規で安価な電極活物質を見つけても、大型蓄電池では現行材料より熱安定性が低下しては、大型蓄電池に使えませんので、その検証は不可欠です。 TG-DSCやTG-MSを使った高温時の発熱挙動や発生ガスの検出による熱暴走機構の解明を行っています。特に、電極表面にSEI不動態膜ができにくいと考えられるナトリウムイオン電池系での発熱挙動は、今後の検討課題です。

これらの熱的評価結果を踏まえ、非水系電解液から、不揮発性イオン液体や、水系電解液、固体電解質への展開を図りたいと考えています。現在、水系二次電池や全固体電池の研究も盛んに行なっています。

③ 反応機構解明:大容量コンバージョン反応機構の解明と可逆性改善

次世代電池用正極材料として、コンバージョン反応を利用した正極材料は既存リチウムイオン電池の2倍、3倍の大容量化を達成できる可能性を秘めていますが、充放電に伴う電極の構造変化、体積変化が大きくサイクル特性の維持に新規バインダー等の力を借りたブレークスルーが求められています。このサイクル劣化機構を明らかにするため、充放電サイクル中の正極活物質の構造劣化について、XRD測定や高強度シンクロトロン光を用いたin situ XANES測定など様々な高度分析技術を駆使して電池内における電極材料の充放電機構の解明を遂行中です。


これらの三本柱を基に詳細には以下のような研究を行っています。(随時更新中)

 

水系二次電池用材料設計

電力貯蔵用大型蓄電池候補となりうる水系二次電池の高性能化に関する研究をしています。Liよりも安価なNaイオンをキャリアカチオンとし、高濃度の塩を水に溶解した水溶液を電解液に用いる事で、水の理論電解電圧1.23 Vを超えて充放電できる高コストパフォーマンスな二次電池創製に取り組んでいます。また、水系電解液中におけるキャリアカチオン水の配位状態の分析を元に、最適なホスト構造を持つ電極の設計も行っています。

Electrochemistry, 85(4) (2017) 179-185.
Small Methods, 3(4) (2019) 1800220.
Phys. Chem. Chem. Phys., 22(45) (2020) 26452-26458.

全固体ハロゲン化物イオン移動型電池の開発

大容量のコンバージョン反応を利用したハロゲン化物イオン移動型の革新電池の開発が世界的に進められています。NEDO RISING3に参画し、フッ化物イオンが移動する革新的二次電池の研究開発を行っています。

また、塩化物イオンや臭化物イオンが移動する新しい電池を世界に先駆けて開発し、可塑性の高い材料を用いることで優れた電池特性を示すことを見出しています。

ChemElectroChem, 8(1) (2021) 246-249.

単一材料からなる酸化物系全固体電池の開発

酸化物系全固体電池は安全性が高いことで知られていますが、電極との固体電解質の接合に課題があります。そこで、正極、負極、電解質の機能を単一材料に集約した「単相型全固体電池」を開発し、高いレート特性を示すことを見出しています。

Adv. Mater. Interfaces, 4(5) (2017) 1600942.
ChemistrySelect, 2(26) (2017) 7925-7929.
Chem. Commun., 54(25) (2018) 3178-3181.
Electrochemistry, 89(3) (2021) 244-249.

固体電解質を電気化学的に「その場形成」する全固体電池の開発

全固体電池の電極合材には、一般的に活物質、電解質、炭素が含有されています。電解質と炭素は電気を蓄えることはできませんが、それぞれイオンと電子を通すために必要です。我々は、Mg(BH4)2を電極活物質として用いることで、リチウムイオンを挿入する過程でイオン伝導性の高いLiBH4が生成し、このことにより電極合材に電解質を含まなくても電池作動することを見出しました。現在、固体電解質を「その場形成」する新たな活物質の探索を行っています。

Chem. Commun., 57 (2021) 2605-2608. (Front Cover)