九州大学先導物質化学研究所 融合材料部門 ナノ融合材料分野
九州大学大学院 総合理工学府 物質理工学専攻 物質構造化学大講座 光機能物質学教育分野

研究内容 の変更点


*''&color(#000080){研究内容};'' [#g7039301]

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 我々の研究室では、光で磁性や伝導性を制御できる物質、結晶状態(固相)で光学特性を制御できる物質、光応答性フォトニック結晶、ナノ磁性材料の開発を行っている。

#ref(Fig1.jpg,nolink,100%)

''Fig. 1光磁性物質、光双安定物質、ナノ磁性物質、電気化学磁性材料の開発.''

*''&color(#000080){1. Fe&size(12){III};錯体の光誘起スピン転移};'' [#g7039301]

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 Decurtinsらは最近スピンクロスオーバー現象を光照射によって誘起できることを見出した。この光誘起効果はLIESSTと呼ばれ、その後 多くのグループによって研究が続けられてきた。その結果、次の二つの限界が指摘されるに至った。それは、(i)「LIESST現象はFeII錯体に特有の現象であり、FeIII錯体など他の金属錯体では観測が期待できない」ということ、及び、(ii)「LIESST現象が観測できる温度は80K程度以下である」ということである。ところが最近我々は、LIESST現象を示すFeIII錯体の開発に成功した。

 Fig.2に我々が着目したFeIIIスピンクロスオーバー錯体の構造と可視光照射前後のメスバウアースペクトルを示した。このFeIII錯体は可視域に配位子-金属間電子移動バンドがあり、可視光照射はこのバンドを励起することに対応する。図から明らかなように、13Kでの光照射により、メスバウアースペクトルが大きく変化した。これは次に示すようなスピン転移が光で誘起されたことを示している。

FeIII-LS(t2g5eg0:S=1/2) -> FeIII-HS(t2g3eg2:S=5/2)

 光誘起準安定高スピン状態が元の低スピン状態に戻る緩和温度は約80Kであった。

#ref(Fig2.jpg,nolink,100%)

''Fig. 2 (a)FeIII錯体の光誘起スピン転移(LIESST現象). (b) FeIII錯体、CoII錯体はスピン転移に伴う金属-配位子(L)間の距離の伸縮(=Dr)が小さく“トンネリングによる緩和”のためLIESST現象は観測できないと考えられていた. (c)光照射前後のメスバウアースペクトル.''

*''&color(#000080){2. Fe&size(12){II};錯体の光誘起スピン転移};'' [#g7039301]

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 上述の様に、LIESST現象が観測できる温度は80K程度以下であると考えられていたが、我々は最近130Kまで準安定状態を保持できる物質を見出すことに成功した。

 我々が着目した物質は [FeL(CN)2]・H2Oである(図3)。このFeII錯体を5Kに保持し55050nmの光の照射(d-dバンドの励起)を行ったところ、磁化が増大する現象が観測された。これはスピン転移、~
FeII( t2g6eg0:S = 0 ) ->FeII(t2g4eg2:S = 2)、が光により誘起され、その状態がトラップされたことを示している。

 また、Fig.3からわかるように準安定状態は130Kまで保持されている。この温度はこれまで報告されたLIESST化合物で最も高い温度である。

#ref(Fig3.jpg,nolink,100%)

''Fig. 3 FeII錯体の光誘起スピン転移.''

*''&color(#000080){3. Co錯体の光誘起原子価異性};'' [#g7039301]

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 1980年、Buchananらは、コバルト錯体[CoII-HS(bpy)(3,5-DBSQ)2]が溶液中で原子価異性を示すことを報告した。また、Adamsらは532nmの光の照射により過渡的であるが原子価異性を光誘起できることを報告した。さらに、最近、我々は原子価異性を光誘起し、その状態を低温で長時間保持できることを見出した。

 我々が長寿命光誘起原子価異性現象を見出したのはFig.4に示した分子である。この物質の配位子-金属間電荷移動吸収バンドを5Kで励起したところ、磁化の増大が観測された。これは次のような原子価異性が誘起されたためである。

 [CoIII-LS(tmeda)(3,5-DBSQ)(3,5-DBCat)]・0.5(C6H5CH3)

 → [CoII-HS(tmeda)(3,5-DBSQ)2]・0.5(C6H5CH3)

 生成した光誘起準安定相の緩和温度は約50Kであった。また、つい最近光誘起原子価異性と室温原子価異性の両方を示す新規二核Co錯体を開発することに成功した。

#ref(Fig4.jpg,nolink,100%)

''Fig. 4 (a)Co錯体の光誘起原子価異性.(b)光照射前後の磁気特性.(枠内:光誘起原子価異性に伴う金属-配位子間距離の変化.CoII-HSは二つの電子が反結合的特性を有するeg軌道を占有しているため、CoIII-LSに比べ金属-配位子(L)間の結合が弱く、結合距離が長い.)''

*''&color(#000080){4. FeCoプルシアンブルーの光誘起磁性};'' [#g7039301]

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 1996年我々は、鉄コバルトプルシアンブルー(Fig.5)が光照射により、常磁性体からフェリ磁性体(磁石)へとスイッチすることを見出した。

 最近さらにこの物質について検討を進めた結果、ヒステリシス内で光照射を行うことにより磁性の変化を200K以上で誘起できることを見出した。すなわち、FeCoプルシアンブルーの低温相に、相転移近傍の温度225Kでナノ秒YAGレーザーのパルス光(532nm)を単発照射したところ、吸収スペクトルが高温相のスペクトルへと変化した。このことは次のような光反応が誘起されたことを示している。

 FeII(t2g6eg0)-CN-CoIII-LS(t2g6eg0) -> FeIII(t2g5eg0)-CN-CoII-HS(t2g5eg2)

 この変化は、ナノ秒レーザーのパルス幅内(~8ns)で起こる。また、光強度依存性を調べたところ、閾値的挙動が見られた。

#ref(Fig5.jpg,nolink,100%)

''Fig. 5 (a)FeCoプルシアンブルー錯体の光誘起磁化. (b)5Kでの光照射により磁石に変化する. (c)温度ヒステリシス内(ポイント3、及び6)での光照射により相転移が誘起される.''

*''&color(#000080){5. CuII錯体の光誘起構造異性};'' [#g7039301]

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 CuII錯体、[CuII(dieten)2](BF4)2、はサーモクロミック物質であり低温で赤色、高温で紫色を示す。単結晶構造解析から、低温相では銅原子に対して配位子の窒素原子が平面四配位しているのに対して、高温相では窒素原子が完全な平面からわずかに四面体方向へ歪んだ構造をしていることが分かっている。

 この物質の低温相に35Kで紫外光照射(250~400nm:配位子からCuIIへの電荷移動吸収バンドの励起)を行ったところ、高温相と異なる新しい物質相が現れることがわかった。光照射前後の吸収スペクトルをFig.6に示した。光照射後のスペクトルが高温相と類似していることから、準安定相のCu周りは高温相と同様、窒素原子が四面体方向へ歪んだ構造(Fig.6)をとっていることが示唆される。しかし、光照射後の粉末X線パターンを測定したところ、高温相のパターンと全く異なり、全体の構造は高温相と同一ではないことがわかった。

 テキスト

#ref(Fig6.jpg,nolink,100%)

''Fig. 6 Cu錯体の固相フォトクロミズム.''

*''&color(#000080){6. 光フォトニック結晶};'' [#g7039301]

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 液晶の光相転移を利用した光応答性フォトニック結晶を開発した。

 光相転移を示す液晶として、アゾベンゼンを骨格にもつ4-butyl-4’-methoxyazobenzene (AzoLC)と、ネマチック液晶(5CB)の混合液晶を用いた。これらの混合液晶は室温でネマチック相であり、紫外光の照射によって等方相へ相転移する。また、可視光を照射するとネマチック相へもどる。この現象は、AzoLCのトランス体とシス体との間の光異性化により誘起される。この混合液晶を逆オパール構造膜中に導入しストップバンドの光応答性を評価した。その結果、紫外光と可視光照射により、可逆にストップバンドを制御できることがわかった。 Fig.7はフォトマスクを通して光照射したときの様子を示している。

#ref(Fig7.jpg,nolink,100%)

''Fig. 7 光応答性フォトニック結晶.光照射によりストップバンド(色)が変化する.''

*''&color(#000080){7. 単分子磁石};'' [#g7039301]

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 上記の様に我々は、光応答性の分子磁性材料、双安定性を示すスピン転移物質の開発等を行なってきた。

 しかし、強磁性や双安定性は協同的相互作用に基づいて発現する機能であり、これまで開発してきた物質では磁気記録のサイズを数百ナノメート以下に微小化することは難しかった。一方、最近単分子磁石が見出され、約1ナノメートルのオーダーでメモリー機能を付与できる新物質として注目されている。そこで、将来の超高密度記録材料の作成を目指し、新規単分子磁石の開発を試みた(Ni and Kou et al.)。その結果、Fig.8に見られる車輪構造を有する新規単分子磁石の開発に成功した。

#ref(Fig8.jpg,nolink,100%)

''Fig. 8 車輪構造を有する単分子磁石.''

*''&color(#000080){8. 単一分子鎖磁石};'' [#g7039301]

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 単分子磁石と並んで単一分子鎖磁石が、最近量子磁石として注目されている。我々は単一分子鎖磁石の開発を目指し研究を行い、マンガン錯体が、単一分子鎖磁石としての特性を有することを見出した。

*''&color(#000080){Reference};'' [#g7039301]

1.  O. Sato, Photoinduced Magnetization in Molecular Compounds J. Photochem. Photobiol. C-Photochem. Rev. Vol. 5, pp. 203-223 (2004). ~
2.  O. Sato, Optically Switchable Molecular Solids: Photoinduced Spin-Crossover, Photochromism and Photoinduced Magnetization. Acc. Chem. Res., Vol. 36, pp. 692-700 (2003). ~
3.  佐藤治:応用物理, 72, 731 (2003). ~
4.  佐藤治:固体物理 38, 166 (2003). ~
5.  顧忠沢、佐藤治:応用物理, 71, 336 (2002).


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