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講 師 : 北川 元生 先生(国際医療福祉大学医学部生化学・教授)
日 時 : 2月29日(木)16:00〜18:00
場 所 : 筑紫キャンパス先導研中央棟111演習室
講演題目 : 『 TM2D3のNotchシグナルにおける機能 』
講演概要:
Notchシグナルは線虫、ショウジョウバエからヒトにいたる動物において存在するシグナル系であり、分化制御をはじめとする様々な細胞の運命決定に関与する。ヒトではその構成要素の変異が各種悪性腫瘍、遺伝性疾患の原因となる。almondexはショウジョウバエを用いた遺伝学的スクリーニングによって見いだされた遺伝子で、Notchシグナルの正の制御因子であることが示唆されていたが、遺伝子クローニングによってその産物が哺乳類Transmembrane 2 domain containing 3 (TM2D3) と構造上類似することが見いだされた。
一方晩発型アルツハイマー病(AD)の大規模なヒト遺伝子研究によって、TM2D3遺伝子の一塩基多型P155LがADの発症危険率を7.5倍(よく知られているAPOE-ε4は3-4倍)上昇させ、さらに発症を約10年早めることが見いだされている。
Notchは膜一回貫通型の受容体分子であり、隣接する細胞に発現する膜結合性のリガンドDeltaあるいはJaggedと結合すると、膜貫通ドメイン付近でプロテアーゼによって切断され、細胞内ドメインが膜から遊離する。このプロテアーゼによる切断がNotchの活性化であり、遊離したNotch細胞内ドメインは核内に輸送されDNA結合タンパク質RBP-Jおよび共役因子MAMLと転写活性化複合体を形成し、Hes、Heyなどの標的遺伝子の転写を活性化する。
我々はヒト培養細胞を用いた実験により、ヒトTM2D3の過剰発現によってヒトNotch1が活性化することを見いだした。さらにTM2D3の過剰発現はNotch1の細胞表面の発現を増加させることから、増加したNotch1が隣接した細胞に発現するリガンドによって活性化されると考えられた。またTM2D3はNotch1と物理的に会合することを見いだした。
さらに我々はTm2d3ノックアウト(KO)マウスを作製した。このマウスから初代培養細胞を調整して検索したところ、Tm2d3 KO細胞は野生型細胞に比べNotch1とNotch2の細胞表面の発現が少ないことを見いだした。この結果は過剰発現の結果と表裏の関係にあり、TM2D3はNotchの細胞表面における発現を調節すると考えられた。
Tm2d3 KOマウスは胎生期に全身に出血し死亡する。このマウスの血管を検索したところ、Notch2を介するシグナルを発生に必要とする動脈の中膜平滑筋層が野生型マウスに比べ低形成であることを見いだした。
野生型およびKOマウス胎仔肝の造血幹細胞を放射線照射したマウスに移植し、再構築された造血系を検索したところ、Notch2を介するシグナルが発生に必須である脾臓辺縁帯B細胞の数がKO細胞を移植したマウスでは野生型細胞を移植したマウスの約半分であることを見出した。
以上からTm2d3は、生体のNotchシグナル系において必須の役割を果たしていることが示唆された。
文献:Masuda, W. et al. TM2D3, a mammalian homologue of Drosophila neurogenic gene product Almondex, regulates surface presentation of Notch receptors. Sci. Rep. 13, 20913 (2023).
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