九州大学発の蛍光色素、がん診断技術等へ応用可能な国産バイオツールとして実用化へ

 

1979年に九州大学生産科学研究所(現・先導物質化学研究所)で発見された強蛍光性色素が、九州大学発のベンチャー企業での10年の開発期間を経て、がん等の疾病診断技術、DNA検出技術等に応用されるバイオツールとして実用化のめどが立ちました。蛍光試薬は2015年度には3千億円(うち病理診断関連1千億円)の国内市場規模が予想され、米国での市場規模はその50~100倍と予想されています。この蛍光色素の実用化により、これまで国産技術がなく、欧米からの輸入に頼っていた様々な問題が解決されると期待されています。

九州大学プレスリリース(2014年5月30日)PDF

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又賀駿太郎 九州大学名誉教授 礒部信一郎 九州産業大学教授(アイエスティー社長)
細胞の仮足を染色2 ラット腎臓尿細管 ヒト腎がんのがん組織部位
マウスNIH3T3細胞の仮足をFluolid-PMで染色
がん細胞転移リスク診断への応用が期待
ラット腎の尿細管をFluolid-Wで
膜選択的染色
ヒト腎がん組織をFluolid-PM
試薬で四重染色(4色)

今回の技術のもとになった蛍光分子は、ピリジノチア(オキサ)ジアゾール[1]と呼ばれる化合物で、1979年に九州大学生産科学研究所(現・先導物質化学研究所)の又賀駿太郎 助教授(現在:本学名誉教授)と高橋和文技官(現在:島根大学准教授)が発見したものです。 古くからバイオツールとしての将来性に興味が持たれていましたが、2003年に当時九州大学大学院工学研究院の科学技術振興研究員であった礒部信一郎氏(現在:九州産業大学教授、本学先導物質化学研究所非常勤講師)は、又賀氏らとともにこの化合物を実用化する研究に着手し、福岡県と久留米市の第3セクターである久留米リサーチパークの後援のもとに民間からの出資も受け、2004年4月に九州大学発のベンチャー企業として株式会社アイエスティー(本社:福岡県福岡市、現社長:礒部信一郎氏)を立ち上げました。その後、福岡県(バイオベンチャー等育成事業、ナノテク産業化促進事業)、株式会社産学連携機構九州(九州大学TLO)と連携した日本政策金融公庫福岡支店による特別枠での融資を受けて活動を続けてきました。この間、研究の拠点を九州大学筑紫キャンパスに置き、先導物質化学研究所 永島英夫教授との共同研究や、同研究所物質機能評価センター・研究支援室の化合物分析協力のもとに、福岡県等からの研究助成を受けて開発を進めてきました。
芳香環・複素芳香環ジアゾール誘導体[2]を基本骨格とする蛍光分子(Fluolid)は、固体状態でも強い蛍光を示す、熱・pH・光安定性が高い、ストークスシフト[3]が大きいという利点を持っています。しかし、これまで開発した蛍光分子は、生体内で使うための条件である水への溶解性に乏しいために、一部の分野でしか実用化できない欠点を持っていました。今回、これまで積み上げてきた研究基盤をもとに、開発目標として、①バイオツールとして十分な水溶性を持つこと、②これまでの10倍以上の蛍光強度を持つこと、③電子線で褪光(色あせない)こと、という3つの目標を掲げ、2009年度~2013年度に、久留米リサーチパークが中核機関となった文部科学省の補助事業(イノベーションシステム整備事業(地域イノベーション戦略支援プログラム))である「久留米高度先端医療開発に関するプログラム」に参画しました。株式会社アイエスティー、福岡県工業技術センター(化学繊維研究所、生物食品研究所)、九州産業大学、産業技術総合研究所、九州大学病院、久留米大学医学部の産学官連携により製品化に向けた研究開発を実施したところ、Fluolid-PMと名づけられた優れた蛍光色素の開発に成功し、その優れた効果が実証され、実用化へのめどが立ちました。

■効 果

これまで知られている他の蛍光色素は、光安定性がなく、室温でも少しずつ分解するため、-20℃の遮光下で保存する必要があります。また、中性に近い条件でしか使えず、ストークスシフトも10~50nmと小さいものでした。また、固体状態では蛍光を示しません。一方、九州大学の発見をもとに開発したFluolidは、太陽光下で2年以上安定であり、200℃でも分解しません。このため、室温で長期保存が可能です。また、酸性から塩基性の広い条件で使用でき、ストークスシフトも100~150nmと大きく、固体状態でも蛍光を示します。 今回、その構造の一部を変更して水溶性を増大させたFluolid-PMでは、世界で初めて4色(緑、黄、橙、赤)の蛍光色素が完成しました。また、Fluolidと比較して最大11倍の蛍光強度があり、4色の色素とも高い標識率で抗体に結合するとともに、安定性が高いという特徴を持っており、実際に癌組織の4重染色ができることが実証され、診断への応用が期待されています。さらに、4年間退色がないため染色した組織を標本として長期保管可能です。 Fluolid-PMの優れた性質は、関西地区の病理検査会社の適応検定により、米国から輸入した従来品よりも優れ、製品として問題ないとの結論を得ていて、国内生産への期待が高まっています。

【お問い合わせ】
九州大学先導物質化学研究所 教授 永島 英夫(ながしま ひでお)
九州大学名誉教授 又賀 駿太郎(またか しゅんたろう)
電話:092-583-7819
FAX:092-642-7819
Mail:nagasima@cm.kyushu-u.ac.jp

Posted:2014/05/30.